Napsterが登場するまでは、レコード会社のバンドルは以下の3つから構成されていました。
- リスクシェアリング
- レコード会社はアーティストに投資するVCでした。これらの投資の大半は、収益性が低いものでした。収益性があるレコード会社は少数で、利益の大半を生み出していました。楽曲の大半は収益性が低いにもかかわらず、レコード会社は実際に、多くの楽曲の開発に資金を提供しました。アーティストたちは、経済的な価値の上昇の大半を、確実な目先の収入と引き換えにしたのです。
- マーケティング – 大規模な広告と物流が密接に結びついたインターネット以前の世界では、レコード会社は、放送チャンネル(ラジオ、テレビ、ポスター、看板など)の限定的な方法において、アーティストを宣伝する重要な役割を果たしました。インターネット以前は、小規模でセルフサービス的なターゲットを絞ったマーケティングは存在しませんでした。
- 物流
- レコード会社は、小売業者と物流に関して関係を持っていました。
これらの3つのサービスのうち、最も重要なのは3番目でした。物流がなければ、ビジネスは成り立ちません。しかし、その後インターネットによって 配信が混乱したのです。
過去20年間、アーティストとレコード会社との対立が増々激化しています。レコード会社が音楽業界の総収入(11〜13ページ)の大半を奪い上げ、ほとんど価値を付加しないとアーティストは気付いたのです。現在、ほとんどのアーティストはオンラインストリーミングをブランドを発見してもらうための目玉商品として利用し、収益は主にライブや商品を通じ獲得しています。
ここには根本的なズレがあります。アーティストは、レコード会社がかかわらない収益源を最適化しています。一方、レコード会社は、ストリーミングから不当に大きな収益を得ています。レコード会社は、ストリーミング収益のためにアーティストに投資し、一方、アーティストはストリーミング以外の収益を最適化する傾向が強まっています。こういったアーティストとレコード会社の間の高まるズレを、プラスとマイナスの両方の観点から見ることができます。
プラス面:(1)The Chainsokers、3LAU、RACといったアーティストは、新しい音楽の収益化モデルに投資しています(ほとんどは暗号通貨と関係するものです)。(2)Kings of Leonなどのバンドは、新しいファンのエンゲージメントとレコード盤配布キャンペーンにNFTを利用しています。(3)Steve AokiなどのDJは、NFTをファンカルチャーとして育て、他のアーティストとのコラボでコレクションを発行しています。
マイナス面:(1)Taylor SwiftとBig Machine Records間の、マスターレコーディング著作権をめぐる公の争奪戦では、自分の作品の所有権を取り戻すためSwiftが、最終的に作品全体を再録音することになりました。(2)Kanye Westの音楽業界との闘い - 例として、彼の新しいアルバム「Donda 2」は、独自のデバイスでのみ入手可能です。Westがこの発表をした時、「今日、アーティストの手に入るのは、業界が上げる収益の12%にすぎない。音楽をこの抑圧的なシステムから解放する時が来た。この状況を自らコントロールし、アーティスト独自のものを築く時だ。」と、述べました。
暗号資産は、3つのサービスのすべてに影響を与える可能性を秘めています。
- 暗号資産は、リスクシェアリングを当然ながら民主化します。レコード会社がレーベルを引き受ける代わりに、アーティストは真のファンからMusic NFT(またはソーシャルトークン)の資金を集めることで、自分達やファンに対してより優れた経済性を提供することができます。これは、中間業者の仲介を排除した典型的な例であり、暗号資産で繰り返されるテーマです。
- 音楽のNFT(またはソーシャルトークン)を所有するだけで、プライベートなショー、ミートアンドグリーと、夕食会、コラ ボといったアーティストとファンが関わる活動に思いがけない広大なデザインスペースを創り出します。音楽業界で、金融価値がある、ネイティブにプログラム可能で構成可能なデジタル資産の層を重ねていくにつれ、アーティストとファン、アーティストとアーティスト、ファンとファンといった今までなかった関わりが生まれていくと期待しています。
- ストリーミング、ライセンス、レコード購入を目的としたWeb3ネイティブのプラットフォームが生まれるにつれ、こういったイベントを代表するオンチェーン取引により、透明性の高いロイヤリティ料金の管理が実現します。構成と録音のロイヤリティに関するこれらの新しい基準が広く採用されると、分散型アプリケーションに固有の合成性は、新しい形態の消費を生み出します。例えば、ユーザー主導のキュレーションとシグナリングが音楽プラットフォームに密接に組み込まれると、レコード会社のマーケティングによるトップダウンの発見ではなく、コミュニティやDAOによるボトムアップの発見が期待されます。
過去9カ月間、暗号資産の世界で「音楽NFT」という言葉は注目を集めています。最近少なくとも数10社のスタートアップ企業が、ミュージシャンがより効果的に収益を得られるようなNFT(またソーシャルトークン)の使用方法を考案しようとしています。
この音楽NFTのスタートアップ企業は、上記の3つのカテゴリーにかなり明確にマッピングできます。
- リスクシェアリング—例 Royal、Opulous、 Decentなど
- ファンエンゲージメント—例Catalog、ENCORE、Highlightなど
- 配信—例Audius、Sound、NINA、Releapなど
これらのサービスは最終的に、私たちが内部で呼んでいる「音楽VC DAO」になると考えています。音楽VC DAOは、本来バリューチェーンの3つの部分を束ねていますが、スタック全体に分散化を重ねています。
- リスクシェアリング—旧来のVCであることは困難です。世界は、予測不可能な方法で進化します。最適な投資(裏)は、通常、初期段階においては最も直感的でないものです。しかし、これは音楽には当てはまりません。音楽は、大衆が良いと信じる場合にのみ良いのです。これは、個人投資家が本当に楽しんで、評価するものに投資できる絶好の機会を生み出します。過去12か月間の爆発的なNFTの発展は、「人は文化に投資したい」から、と考えることができます。音楽は、文化的に最も重要な創造的なメディアである一方、最も収益性の低いメディアでもあります。音楽ファンは、有名になる前にアーティストを発見することを誇り に思っており、それに投資ができるのももうすぐです。次世代の音楽キュレーターは、レコード会社の経営陣ではなく、独自の音楽投資においてオンチェーンの実績を有する(多く場合無名な)熱心なファンであることでしょう。これらの投資が機能する正確なメカニズム(NFT、ソーシャルトークンなど)は、まだ明確になっていませんが、そのうち見えてくるでしょう。ファンの大きな投資意欲、アーティストの新しいリスクシェアリングモデル発見へ対する熱い願望、そしてこのスペースにおける優れた起業家の存在は、今後数年間に新たなリスクシェアリングモデルが出現することを事実上保証しています。これらのリスクシェアリングモデルは、次世代の音楽VC DAOを創造する基盤を築くものになります。
- ファンエンゲージメント—このエッセイの冒頭で、レコード会社が提供する2番目のサービスをマーケティングと呼んでいます。1950年代から2000年代、インターネット前の通信チャンネルは一方向であったため、ミュージシャンとファンとの関係もほとんどの場合、一方向でした。インターネットは、それを変えました。ミュージシャンのマーケティングの未来は、非常に高度で、双方向またターゲットを絞ったパーソナライズできるものです。50年以上の歴史があるエンティティとしてレコード会社は、この意味であまり技術進歩が進んでおらず、さらに収益の多くは、主流のアーティストと結びついているため、若いアーティストのファンとのエンゲージメントの向上をサポートしようとするインセンティブも存在しません。このツールの性質上、ジャンル(エレクトロニック、ラップ 、カントリー)やミュージシャンのステージ(新進気鋭、Taylor Swift)を超えて、市場のニュアンスを理解するためには、卓越したプロダクトリーダーシップが必要となります。新しいリスクシェアリングメカニズムと統合する必要性と相まって、このデザイン空間は広大です。Discordのようなチャットアプリに埋め込まれたNFTマーケットプレイス、Twitterのようなアプリに埋め込まれたソーシャルトークン、さらにオンチェーンの視聴に基づく個別化された展開戦略が生まれることを、私たちは楽しみにしています。
- 配信
- Spotify、Apple、YouTubeが音楽配信を独占しています。既存のレコード会社と常に対立状態にあり、両者は一定の営業収益を巡って争う中、最近ではその緊張が悪化しています。これは、リスクシェアリングとファンエンゲージメントツールを賢く統合できる新しい配信サービスを構築するユニークな機会を生み出します。
前述にあるように、多くの暗号資産系スタートアップ企業がレコード会社を非バンドル化しようと試みています。それぞれがバンドルの非常に小さな部分から手をつけ、徐々に拡大しています。次世代のフルスタックレコード会社を構築しようと多くの人は考えてはいないと思いますが、こういったスタートアップが自ずと行き着く点は、フルスタックレコード会社だと見ています。
レコード会社のバンドルは、インターネットがまだ存在せず、所有型経済以前の時代の最適な市場構造を反映するものです。中核となる所有型モデルが変わると、マーケティングと配信ツールセットも自ずと変化します。これは、物理的なCDからiTunesシン グルに移行した際、そして、iTunesシングルからSpotifyが先駆けた聴き放題ストリーミングバンドルに移行した際にも発生しました。今後数年で、業界内で最高の製品群は、リスニング体験だけでなく、上記3つの分野にまたがる一連のリスクシェアリングとファンエンゲージメントサービスを密接に統合したバンドルになると期待しています。スタックのそれぞれの層は、最大限に機会を活かすために、他との密接な製品統合が必要です。
この市場が発展するのを期待しています。今年はベンチャーステージで積極的に投資をする予定です。このスペースにおいて投資をしている方は、EメールまたはTwitterでご連絡ください。お話ししましょう。
この記事の草案についてフィードバックを寄せてくれたJesse Walden、Fred Wilson、Shayon Senguptaに感謝します。
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