編集者メモ:*これは2部構成の記事のパート1です。パート2(以下に記載した問題の解決策)を読むには、こちらをクリックしてください。*
3月12日、暗号市場では途中13時間を挟んで2回の大きな下落がありました。最初は(アメリカ時間の)午前早く、次は夕方に起こりました。最初の25%の下落は、その規模としてはすばやく、比較的秩序だった起こり方をしました。しかし、その次の下落によって市場構造が崩壊しました。残念ながら、この崩壊によりBitcoinの価格は数分間で4,000ドルを下回ってクラッシュし、1日としては過去7年間で最悪の下落を記録しました。市場構造が維持できていれば、BTCは4,000ドルを下回るまで下落することはなかったでしょう。
この記事のパート1では、以下の内容について説明します。
- 何が起こったのか
- なぜ起こったのか
今週後半にリリース予定のパート2では、以下の内容を説明する予定です。
- 根本にある問題に対する可能な解決策
- このようなクラッシュが、短期的に再び起こる可能性が低いのはなぜか
- このようなクラッシュが、中期的に再び起こる可能性が高いのはなぜか
要約:BitcoinとEthereumネットワークは、現在の形式ではグローバル規模での運用は不可能です。危機の間、これらのネットワークは大変混雑してしまったため、アービトラージャーが複数の場 で価格を維持できず、個別の取引所で大規模な混乱を引き起こしました。単一の取引所(BitMEX)での大規模な混乱が、15分から30分の間にBitcoinを4,000ドル以下に下落させましたが、市場が正常に機能していればこれは起こりませんでした。
暗号市場の構造
市場構造が崩壊した理由を理解するためには、現在の市場構造を理解しなければなりません。暗号市場の構造は、株式の市場構造とは異なります。株式市場では、単一の場でほとんどの資産の莫大な量が取引されています。一方、暗号市場は外国為替(FX)市場に近いといえます。
暗号市場の構造のユニークな特徴は以下の通りです。
- 多くの取引所が存在します。主要な取引所は、BitMEX、Binance、Huobi、OKEx、FTX、Deribit、Coinbase、Bitfinex、LMAX、Krakenです。また、Bybit、BitMax、BitForex、itBit、Bitstampのような小規模の取引所(3月12日にはその多くで10億ドルを超える取引が行われました)も連なっています。そして次に、Maker、Compound、Lendf.me、Synthetix、Uniswap、IDEX、dYdXなどのDeFiのエコシステムがあります。
- デリバティブ取引所は、(いわゆる「perps」と呼ばれる)パーペチュアルスワップコントラクトを介して125倍までのレバレッジ(これは即座に利用可能です)を提供しています。これほど大きなレバレッジを利用する参加者は稀ですが、多くの取引では10倍から50倍のレバレッジが利用されます。レバレッジは非常に迅速にシステムに出入りし、清算は頻繁におこります。
- 市場の仕組みは取引所間で同じではありません。各取引所で、異なる種類の製品(スポット、先物、パーペチュアル、オプション)を提供し、異 なる製品に対して異なる種類の担保を受け入れます。そして、清算方法/清算パラメータもそれぞれ独自のものがあり、各製品の流動性も取引所により大きく異なります。例えば、1)Binanceはスポット取引を支配しており、デリバティブのトップ5プレーヤーの1つです。そして、数十の資産でパーペチュアルコントラクトを提供しています。Binanceでは、BTC先物やパーペチュアル用に数種類の異なる担保をサポートしていますが、ETHにはUSDTだけです。2) BitMEXでは、先物とパーペチュアルで8つの資産を取引していますが、担保としてはBTCのみを受け付けています。3) FTXでは、最も多様な製品群(スポット、先物、パーペチュアル、オプション)及び担保オプションを提供しています。4)Deribitはオプション取引を支配しており、先物とパーペチュアルで成長中です。
- トレーダーは、取引所間でポジションをクロスマージンできず、このサービスを提供する全ての取引所に十分な資本を持つプライムブローカーはいません。これは資本効率に悪影響を及ぼすため、エコシステム全体での資本コストを増加させます。さらに、ほとんどの取引所ではいまだにロングポジションとショートポジションをネットアウトしておらず、この問題をさらに複雑にしています。
- 市場参加者の中には、自分の資産を異なる通貨に振り分けている人もおり、そうした人はリスクや取引について異なった視点で考えています。ほとんどの人は、資産をUSD(米ドル)で保持していますが、中にはBTCで持っている人やETHで持 っている人もいます。
- 従来の市場では、最も流動性の高い資産を担保として受け入れています(例:NYSEで取引されている株式など)。しかし、暗号市場の貸し手は一般的にUSD、BTC、ETHのみを担保として受け入れています。これにより、借り手に支払い能力があるにも関わらず、ポジションを清算することなく担保要件を満たすことができないという基本リスクを引き起こす機会が生まれます。
- ユーザーが資金を預けても、取引所は即座には口座に記入しません。取引所や資産によりポリシーは様々であり、一般的に預金トランザクションを含むブロックが確認された後、最低でも10分、場合によっては60分かかる場合もあります。3月12日のように活動が活発な期間には、トレーダーは自分のトランザクションが確認されるまで数ブロック待たなければならない場合があります。
- 2~3の例外を除き、すべての価格設定はDeFiプロトコルを使用するものとは逆に、事実上従来型の取引所で行われています。その結果、DeFi価格は中央集権型の取引所に後れを取っています。アービトラージャーは、これらの取引所での価格を維持した上でかなりの利益を生み出しています。
- 多くのトレーダーは、1つか少数の取引所しか利用していません。例えば:1)米国ベースのファンドの中には、Coinbase、Kraken、CME、Bakktでしか取引しないものもあります。2)中国の個人投資家のほとんどは、主にHuobiで取引しています。3)KYCを拒む人もいます。それゆえBitMEXでしか取引しません。4)多くのトレーダーはまだ十分に洗練されておらず、あるいは十分な注意を払っていないので、様々な取引所間の流動性にアクセスすることで最善の取引を試すということを行っていません。
上記に示したすべてのことから、取引所間で価格が異なる理由は明らかです。 通常、価格はメーカー/テーカー手数料や小幅なスプレッド(通常、数ベーシスポイント)を超えて大幅に異なることはありません。異なってしまうと、流動性プロバイダーやアービトラージャーは通常、主要な取引所で十分な資金により裁定取引で利益を得ることができ、その結果スプレッドがなくなります。
しかし、ボラティリティが増すといくつかのことが同時発生します。1. 清算が加速する。トレーダーの中には125倍までのレバレッジをかけている人もいますが、ほとんどの取引レバレッジは25~30倍です。25倍のレバレッジであれば、取引所は清算中の潜在的なスリッページを考慮してバッファーを含めなければならないため、3%までの動きでポジションの清算を行います。あるいは、トレーダーはより多くの担保を預けなければなりません。2. 清算の閾値は取引所によって異なるため、清算がカスケードすると取引所間で価格差が生じます。3. アービトラージャーは各取引所において十分な資本を持っていないため、そのままではアービトラージを埋められません。そのため主にBTC、ETH、USDT、そして少ないながらUSDCといった資産を取引所間で移動させることで、価格差をアービトラージします。
これが起こると、BitcoinでのブロックスペースとEthereumでのガスに対する需要が数分間で跳ね上がります。ガス 代は跳ね上がり、多くのトランザクションを数分間あるいは数時間ブロックに含めることができなくなります。
これが起こると価格が急落し、電気代よりも(暗号通貨建ての報酬である)マイニング報酬が下落するため、マイナーはマシンの電源を落とし始めます。これにより、新しいブロック生成のスピードが遅くなってレイテンシーが増し、合計スループットが低下します。
これが3月12日に起こったことです。
最初の下落は、グローバルな株式市場で投げ売りが発生したことでトレーダーがリスク回避のために引き起こした可能性が高いものとみられます。2度目の下落は、担保を清算しようとした貸し手によって引き起こされた可能性が高いでしょう。担保は、最初の下落により支払い不能になった借り手のものでした。マイナーの中には、最初の下落後にマイニング装置をシャットダウンした人もいました。2度目の下落により、さらに多くのマイナーがシャットダウンを行いました。
そして、市場構造が崩壊しました。
BitMEXでは担保としてBTCのみを受け入れているため、BitMEXでのすべてのBTC-perpロングはレバレッジを引き受けざるを得ません。なぜこれが問題なのかを理解するために、このように考えてください:トレーダーがBitMEXでperpsを用いてBTC-USDロングを行った場合、BTCの価値が下がるとトレーダーはその取引で資金を失うことになり、BTCの担保価値は下がります。これにより、BitMEXの清算プロバイダーにとって本質的なリスクが生み出されます。市場価格が1日に30%を超えて動く場合、あまり大きなレバレッジ を賭けていないトレーダーの間でさえ清算が始まります。マーケットメーカーはこのことを理解しており、そのため通常よりも低い流動性を提供して下落カスケードを加速させます。
担保の清算の結果、スポット価格が下落したためにデリバティブがそれに続きました。BitMEXがレバレッジされたロングを清算し始めました。これらの清算がカスケードし始めました。最初の大きな下落から市場が落ち着くまでの間に、多くのマーケットメーカーが流動性の提供をストップしました。BitMEXとCoinbase間のワイルドスプレッドが一時500ドルを超えたことで、流動性プロバイダはBiTMEXでロングマージンを取りたがらず、一連のカスケード清算をストップさせられませんでした。
出典:Skew
さらに、Bitcoinブロックチェーンが混雑していました。これに、マイナーがマシンをオフにしたことでブロックの生産スピードが遅くなったという事実が重なりました。取引所間での価格差が大きくなったため、アービトラージャーはたとえ下落中に買い進めようとしても、価格を正常に戻すためにBitMEXにBTCを預けることが文字通りできなくなりました。
ある時点で、BitMEXのオーダーブック全体で2千万ドルしか残っていない一方で、清算するロングポジションは2億ドルを超えていました。これはつまり、BitMEXが「メンテナンス」のためにシステムダウンしなければ、BTCの価格があっという間に0ドルまでクラッシュした可能性があるということです。暗号市場構造でのBitMEXの中心的なポジションから考えると、この価格の動きは他のBTC取引所すべてに広がった可能性があります。
DeFiの失敗
(アービトラージャーが資本をBitMEXに送信できなかったこと、そしてBitMEXの能力不足などを原因として)BitMEXは崩壊し、DeFiは完全に失敗しました。
Makerは最大のDeFiプロトコルであり、他のDeFiの大部分がその上に構築される基盤になっています。Makerは崩壊寸前でとどまりましたが、想定されたいくつかのことが起こった場合は実際に崩壊していた可能性があります。Makerは大きな失敗を2つ経験しましたが、そのどちらかだけでも十分に世間の注目を集めるに足るほどものです。最初の下落の結果、一部のMakerのボールト(以前はCDPとして知られていました)は担保不足に陥りました。Makerのチームによって書かれたオープンソースのKeeperソフトウェアを実行しているKeeperたちは、担保不足に陥ったボールトを清算しようとしました。しかし、Keeperソフトウェアはネットワークの混雑に応じてガス代を大胆に調整するという構成にはなっていなかったため、マイナーはKeeperの清算トランザクションをブロックに含めなかったのです。
従って、Makerプロトコルに関する限り、誰も担保オークションに入札しませんでした。
ガス代を上げることによって自分だけがオークションの参加者になり、その結果0ドルという低価格で入札できることに気づいた人がいました。そして、彼女は800万ドルのETH担保に0ドルで入札し、手に入れました。
それらのボールトのオーナーに法的なリコースはありません 。しまった。
さらに、Keeperが担保プールに返さなかったため、実際には担保が余分にあったにもかかわらず、Makerシステムは担保不足に陥りました。つまり、MakerはETHとBAT担保を十分に持っており、すべての未払いのDAIと引き換えられたにもかかわらず、目標リスクの閾値を下回ってしまったのです。しかし、Makerの2度目の失敗はそれよりもはるかに危険なものでした。にもかかわらず、ほとんど議論されていません。
Makerオラクルを駆動するソフトウェアはKeeperソフトウェアと同じように、非常に混雑したネットワークで実行するようには構成されていませんでした。そのため、多くのオラクルがMakerコントラクトに価格を送信するのを止めてしまったのです。
MKRホルダーはシステムのリスクパラメータに投票し、オラクルは価格を報告することでこれらのルールを実行させます。オラクルが価格を正確に報告することができなかったため、MKRホルダーに不必要なリスクを負わせることになったのです。
中部標準時で12日の午後7時ごろには、ETHは88ドルまで下落しており、多くのボールトが100ドル近辺で清算されるように設定されていたため(100が他のトレーダーが支持しやすい心理的な強力に数字であると知っているため、トレーダーは意図的にボールトの清算ラインを100ドルに設定していました)、大量のボールトが清算されていなければなりませんでした。しかし、MakerのオラクルはETH-USDが100ドル未満に下落しても、ETH-USD価格を全く更新しませんでした。
オラクルがガス価格を引き上 げなかったのか、あるいはシステムを守る目的で意図的に価格を更新しないことを選択したのかは不明です。オラクルが価格を正確に報告していたならば、これらのボールトのすべてが清算されてしまい、ETH価格はさらにカスケード状に下落したことでしょう。ETHが100ドル未満に下落し、市場がめちゃくちゃになったため、多くのマーケットメーカーが流動性の提供を停止しました。市場での数百万ドルの売却が、ETHを50ドル以下にまで押し下げた可能性があります。
この失敗により、以下のようにさらに大きくカスケードした可能性があります:
- Makerは支払い不能に陥っていた可能性があります。そうなっていれば、DAIをペッグ未満に押し下げた可能性がありました。
- DAIは、CompoundやLendf.meのような他のDeFiプロトコルでローン担保として使用されています。DAI価格が下がると、これらの借り手は清算されてしまった可能性があります。
- DAIに加えて、多くのERC-20トークンがCompoundやLendf.meのようなプロトコル上で担保として預けられています。ERC-20は一般にETHと相関しており、ETHが下落するとこれらも同様に下落した可能性が高くなります。このことにより、他の貸し出しプロトコルで一層の清算を引き起こし、DeFiのロングテールをカスケードしたことでしょう。
- MKRの価格は、MKRオークションがシステムの資本の適切な再構成に失敗した時点で崩壊した可能性があります。
今日、DeFiの活動は暗号CeFi活動のおよそ1%です。そして、暗号は世界市場での丸め誤差にあたります。DeFiがより大きな資本を持ち、より多くの人がかかわり、より多くの取引が行われていた なら、状況はどれほどひどくなっていたかを想像してみてください。
Crypto Mega Theses(暗号資産にとって巨大なテーマ)で記したように、私たちはDeFiに大きな可能性を感じていますが、それにはまだ長い道のりがあります。これにより、私たちがどれほど初期段階にいるかについてハッと気づくことができ、同時にどれほどの投資機会が存在しているかを示してくれます。
結論 --
今回のことから学んだ最も大切なことは、暗号市場インフラはいまだに未成熟であるということです。多くの面で改善の余地が存在し、それゆえに多くの投資機会もあります。
BitMEXのような取引所は明らかに苦労しましたが、技術的な問題の中でも特に清算エンジンを改善することは可能です。しかし、BitMEXが今後は完璧に運営したとしても、市場はなお苦労することでしょう。BitcoinやEthereumネットワークは現在のままでは、グローバル規模での資本市場活動を支えることはできません。
この記事のパート2で、可能な救済法について説明します。
開示:*Multicoin Capitalは、BTC、ETH、DAI、USDT、USDCトークンを保有しています。*
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