今日のブロックチェーンに相互運用性は事実上存在しません。
チェーン間で価値を移動させる場合、トークンを中央集権型取引所に移動させ、取引所の社内台帳で取引をした後で、新しいチェーンから新しい通貨を引き出す必要があります。このプロセスには時間と費用がかかり、カウンターパーティリスクを伴います。
チェーン間の相互運用性は基本的に2つの種類があります。
- あるチェーンの状態を別なチェーンにメッセージでリレーします。これには合成トークン(一対一ペグ、双方向ペグ、サイドチェーンとも呼ばれる)が含まれます。
- クロスチェーンアトミックスワップ。これは、サードパーティートラストレスなユーザーによる異なるチェーン間のトークンのやり取りを指します。
PolkadotやCosmosなどの注目を集めるプロジェクトが、メタ「ブロックチェーンのブロックチェーン」となることを目指して競い合っています。これらのシステムはそれぞれで固有のネイティブステークトークントークンを保持しており、バリデータが関連するネットワークで作業する場合は、ステークを取得する必要があります。
もう1つのチェーンオブチェーンであるBlock Colliderは、多数の同じような機能を実現するために技術的に全く異なる仕組みを提案しています。
チェーンの相互運用に関するVitalik Buterin氏の素晴らしい論文から得た洞察を基に、上述した2種類の相互運用性について紹介し、これらのシステムの最高の機会がメッセージの中継であることに焦点を当てていきます。クロスチェーンアトミックスワップは、チェーンオブチェーンの専用システムがなくてもトラストレスを実現することができます。
クロスチェーンメッセージ
クロスチェーンメッセージが抱える問題は基本的に信頼性に関するもので、すなわち、チェーン間のメッセージをトラストレスにリレーするにはシステムをどのように設計すべきか、という課題に答えを出すことを意味します。
この問題は、孤立チェーンと呼ばれるリスクを考えた場合、特に難しいものになります。あるサービスがチェーンAの状態をチェーンBにリレーし、そのリレイヤーがチェーンAのフォークに存在する場合、最終的にチェーンAは孤立チェーンとなります。その場合、チェーンBにリレーされたメッセージは無効となります。
メッセージをリレーするためにチェーン間で合成トークンを発行しても、クロスチェーンの二重支出とみなされるため、受け入れは拒否されます。メッセージリレーシステムにとって、「もしリレイヤーが孤立したフォークにいるとしたら」という永遠のリスクに対処することは最大のチャレンジと言えます。
CosmosとPolkadotは、2つの仕組みを活用して孤立チェーンの問題に対処しています。まず、ブ ロックチェーン間通信(IBC:Inter-Blockchain Communication)プロトコルを利用して、各クロスチェーン取引のマークル化ブロックヘッダーを保存します。Cosmos/Polkadotは、マークル化されたブロックヘッダーの履歴を基に、各トークンの総供給量のグローバルな不変バランスを維持します。この2つの仕組みを組み合わせることでクロスチェーンで生じる二重支出を回避します。
もし、Oraclizeのようなシステムがチェーン間のメッセージをリレーできれば問題は解決します。しかし、この種のシステムは孤立チェーンの問題を考慮していません。
未来に目を向けると、チェーンそのものを送信できれば、孤立チェーンの問題は解決できるはずです。問題はその方法です。プルーフオブステーク(PoS)ベースのシステムでファイナリティを活用します。これは、現在はアルファ版がリリースされているCasper FFGの明確な目的です。しかしこのようにPoSシステムをパラメータ化することのトレードオフとして、ファイナリティまでの時間がどの程度影響を受けるのかは不明です。
ファイナリティを保証できたとしても、別の問題が残っています。
現在、ブロックチェーンのイノベーションはカンブリア爆発を迎えています。この状況は少なくともあと数年間は続く可能性があります。新規参入するチェーンの数を考えると、各チ ェーンは、通信相手のチェーンのマークル化されたブロックヘッダーを保存および検証する必要があります。
各ブロックチェーンは、相手チェーンのブロックヘッダーで肥大化する可能性があります。ブリッジチェーンを使うことで、チェーンごとの肥大化率の関数nを2乗から1乗に減らすことができます。
ブロックチェーンが仲介チェーンなしで直接やり取りする未来を期待していますが、その可能性はほとんどないものと考えています。この問題は、ビットコインのようなシステムがProof-of-Work(PoW)のコンセンサスから、ファイナリティが保証されたPoSコンセンサスに移ることはないかもしれないという事実によって、さらにその深刻さが増しています。
遠い未来には仲介チェーンが不要になることはあり得ることですが、そのような未来は未だ不透明です。近い将来、少なくとも数年間は、Cosmos/Polkadotがクロスチェーンメッセージを支えるバックボーンとなるチャンスは十分あります。
クロスチェーンアトミックスワップ
最初のクロスチェーンアトミックスワップは、LitecoinとDecredの間で最近行われました。
どちらのチェーンもチューリング完全プログラミング言語をサポートしていません。クロスチェーンアトミックスワップは、汎用スマートコントラクトプラットフォームの間で技術的に簡単に実装できるようになるでしょう。これらのライブラリが成熟して広く採用されるには、あと1、2年はかかると予想されますが、必ずそのようになるはずです。残 された技術的課題はそれほど多くありません。
クロスチェーンのアトミックスワップが抱えるもう一つの大きな課題は、価格発見と注文のマッチングです。そこで、0xやOmiseGoのような分散型取引所(DEX)の出番となるわけです。OmiseGoは完全に分散化されており、オーダーブックはチェーン上に存在します。
0xでは、注文はリレイヤー(集中管理の主体)が保持し、一致した注文を決済のためにチェーンに送信します。
もし市場が最終的にDEXにオンチェーンのオーダーブックを含む完全な分散化を求めるなら、クロスチェーンアトミックスワップを機能させるためにOmiseGoのようなシステムが必要になります。しかし、オンチェーンオーダーブックの本質的な制約(決済時間、マイナーによるフロントランニングやグリーフィングなど)を考えると、当面は0xモデルの優勢が続くものと予想されます。
現在0xはイーサリアムエコシステム内でしか動作しませんが、0xのロードマップにはクロスチェーン*のサポートが含まれています(Scryptベースのチェーン向けのLitecoin-Decredプルーフオブコンセプトで構築された技術の多くを活用するものと思われます)。0xリレイヤーは価格発見のためのオーダーブックを保持し、各チェーンのエスクローから資金を放出するためにチェーン間でメッセージをリレーします。この仕組みでは、分散化(カウンターパーティーリスクのない)と集中化(速度やオーダーマッチングで有利)における多くの優れた要素と、最小限の信頼保証(リレイヤーが実際に双方のチェーンにリレーすメッセージだけを保証対象とする)を提供します。
オンチェーンDEXは理論上可能です。
しかし、オンチェーンDEXが直面する制限や、オーダーブックの流動性に内在するネットワーク効果、市場投入までの時間や市場参入における優位性、0xリレーヤーの最小限の信頼保証を考慮すると、0xモデルがより広く普及し、Cosmos/Polkadot/Block ColliderベースのDEXにはほとんど機会がないと考えています**。
結論
Cosmosの立ち上げまであと1、2ヶ月に迫る中、インターネットにおけるブロックチェーンの機会に関する巨大なハイプサイクルを目撃することになります。Cosmosのようなシステムは、クロスチェーン通信の基本的な問題を解決しますが、必ずしもクロスチェーン通信のすべての問題に対する答えとなるわけではありません。
このようなシステムが可能にするあらゆることを、チェーンオブチェーンで実行する必要はないことを認識することが最も重要です。暗号通貨のエコシステムが進化するにつれて、信頼モデル、リレイヤー、ソリューションはより多様化していくことが予想されます。
*:クロスチェーンアトミックスワップは、両方のチェーンがネイティブなエスクロー機能を提供する場合にのみ利用できます。これには最低でもビットコイン並みのスクリプト機能が必要です。例えばIOTAやsiaのような一部のチェーンで は、オンチェーンでのトラストレスエスクローを全くサポートしていないため、トラストレスなクロスチェーンアトミックスワップを実装することはできません。
**:クロスチェーンアトミックスワップの最大の制限の1つは決済時間です。当然ながらこのようなチェーン間の取引決済にかかる時間はどちらか遅いほうのブロック時間で決まります。Block Colliderのシステムでは、理論的にはどちらのチェーンのブロック時間よりも速い決済を可能にします。クロスチェーンアトミックスワップによって、双方のチェーンのブロック時間よりも速く決済ができるようなるというのは、かなり荒唐無稽なアイデアと言えます。ビットコインのブロック時間の遅さを考えると、Block Colliderは興味深いニッチを切り拓いていると言えます。
この記事に意見を提供してくれたSunny Aggarwal、Matt Luongo、James Prestwich、Sina Habibianには特に感謝いたします。
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